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デザートのマナーと知識15

    

デザートのマナーと知識N 温かいスフレ
バベルの塔・・・この地がまだ全ての言語で統一されていた時、バビロニアの人々は天の神に届く程に高い塔を建てようと考えました。それは、神への崇拝のためでなく・・・それが判った神は、人々の言語を混乱させ、互いの言葉を理解できなくし、バベルの塔の建設を途中で終わらせた。それ以来、末裔の我々も神の怒りにより言葉の違う文化を共存する事になります。旧約聖書に記される伝説からです。

神奈川にあるプリンスホテルに勤務していた時代の話です。

フレンチレストランの業務に携わっておりました。お客様からの夕食最終オーダーは、22時でした。勿論ラストに近づく程にデザートやコーヒーのご注文が多くなります。そしてレストランは何時も無事にクローズの時間を迎えます。しかし、そんな日ばかりではありません。22時に程なく迎える数分前にデザートのオーダーでとんでもない事件が起こりました。ラストオーダーでスフレのオーダーを承ってしまったキャプテン(主任)がおりました。勿論お客様のご注文にとやかく言うつもりはありません。しかし、出すタイミング、作る時間を考えると、オーダーストップ数分前に受けてはいけない暗黙の了解がありました。温かいスフレは、瞬間芸術に近いものがあり、卵白で泡立て仕上げたスフレはフックラと綺麗な姿の時間が短く、冷えてしまうと原型を留めなくなります。作り手や、出し手は、おのずと緊張をします。オーダーを受けたら伝票に記入し、調理場のベーカーコーナーに声を出し、読み上げます。・・・

さて、そこから事件は始まりました。そのオーダーを読み上げたとたんにベーカーシェフから「この馬鹿やろー」と怒鳴り声が上がりました。「この時間にスフレだ!お前それでもプロか?」キャプテン(主任)もこの言葉に答えます。「お客様が召し上がりたい、それもオーダー出来る1分前でも、30秒前でもラストオーダーに答えるのが当たり前だ、あんたこそ、それでもプロか、ベーカーシェフか“」新入社員の私は、調理場の角からただ黙って見ているのが、精一杯でした。強持てでならしていたベーカーシェフ。空手部出身のキャプテン(主任)・・・どちらも引きません。ついに殴り合いになり、形勢が不利なシェフが、ぺティーナイフまで持ち出し、事態は最悪になってしまいました。大勢で二人を羽交い絞めにし、事をなんとか収めましたが、怒り、憤り、そして、熱々のスフレのインパクトは一生忘れることが出来ないものになりました。

フランス語で(膨れた)と言う意味のスフレ・・・卵白の泡を膨らませて熱々の状態で提供します。オーブンから出した瞬間から変化が始まります。膨らみがしぼまらない内に大振りなデザートスプーンで召し上がって頂き、お客様に満足して頂くまでが勝負です。このデザートこそ可憐で変化のあるデザートもなかなかありません。しかし、作り手、出し手が、ここまで勝負してお出ししているとは、ご理解頂けないと思います。それ故に、このデザートをお出しするレストランもなかなか在りません。もし、お出ししているレストランにめぐり会えたら、真剣勝負しているレストランと理解して下さい。

神は、人々の言語を混乱させ、人々が互いの言葉を理解できないようにさせ、バベルの塔の建設を途中で終わらせてしまいました。殺伐とした心では、統一された言語でも、お互いを理解しあうのは至難の業です。ホスピタル・マインド(思いやり)がいかに大事か、デザート、スフレを通して教えて頂いたのが、昨日の様に蘇ります。

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